「金満」と「飼い殺し」

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タイガースが金満球団になっていると言えば、多くのTファンが「TはGとは違う」と反論するだろう。


各球団の主砲やエース級をことごとく引っ張ってきたやり方と、適所適所に戦力を充当し、厚くしていることは「哲学」が違うと。それは一理あるかもしれない。だが他より抜けた資金力を背景に戦力増強をしていることは事実だと思うし、戦力の厚さの名の下に多くの飼い殺し選手を抱えているという点では、かつて同じ問題で非難されていた頃のジャイアンツとなんら変わらないのではないだろうか。
今回、ファイターズが坪井を一度戦力外とし、再びまた雇用することになるという。ドラフトで即戦力の長野を獲得できるという見込みが外れたことが今回の「出戻り劇」に繋がったのだろうが、この行為は極めて健全だと思う。限られた予算の中で、かける費用と、そのもたらす効果を見なおし、その結果若手に切り替えるべきと判断した。その若手が入団拒否したのは計算外だったろうが、そこで新たな戦力補強を考える、その時点で予算内(推定年俸2千万円)の選手として坪井がいたから獲る。どこも安くて働ける選手を探しているのだ。
ヤンキースがランディ・ジョンソンをトレードに出すかも知れないという。元祖金満球団のヤンキースだが、井川、ペティットの獲得で先発投手が余る。誰かが故障するかも知れないが、有力選手を飼い殺しにしないのが「メジャーのお約束」だから、誰か一人は出すだろう。
飼い殺しは球団にとって大きなメリットがある。他球団にとって即中心選手になれるような選手を、自チームに抱えておけば、例えそこに金がかかろうとも優位を確保できるのだから。
もちろん好んで殺さなくても、まさかの故障の時には期待通りのバックアップになるだろうし、レギュラーを脅かすライバルとして、チーム力をアップさせるのは間違いない。
一方で、飼い殺しには恐ろしいデメリットがいくつもある。まず文字通り選手一人を殺すこと。例えば野口捕手は、その選手としての全盛期を(結果的にではあるが)矢野のバックアップとしてタイガースに捧げた。もちろんその代償として安定した給料を得て、おそらく将来の指導者としての保証も得たのだろう。本人も納得してのことなのだから誰も文句はない。
それでも古田の陰で下積みを重ねて、やっと掴んだ「主戦捕手野口」を飼い殺しにしたという事実は変わらない。
現在、タイガースには若手とは呼べない年齢で、他球団から見れば「なぜ上で使わないのか」と思える選手が何人かいるように思う。タイガースの関係者だってそう思っているだろう、だが上にはしっかりとした主戦がいるから使えないのだ。タイミングによっては、その選手は力を発揮することなく消えていくことになるかも知れない。
このことはその選手が不幸になる可能性があるだけでなく、ファンにとっても不幸なことになり得る。まずその選手を応援しているファンにとっては、見る機会さえ与えないということになる。
さらに大きいのは、飼い殺しによって本来あっても良いはずの戦力均衡を、意図的に崩すことができるということ。もしあの年、野口クラスの捕手さえいれば、優勝争いに絡めたのに…例えばの話だが、そんなチームもあったかも知れない。
ただしこれは「金満球団」が責めを追う問題ではない。各チームともルールに従って、自チームが優勝すべくベストを尽くしているだけのことであって、逆にベストを尽くしていないと目される球団の方がよっぽど悪い。責められるべきは、その「ルール」であり、ルールを見直せない「機構」なのだ。
例えば一定の期間の内、一軍登録期間(または出場試合)が○○日に満たない者は自由に他球団に移籍できるという「飼い殺し防止FA」があれば、優勝争いの盛り上がりに必ず寄与するはずだ。新人の契約金の抑制にも繋がるかも知れない。
そして長い目で見れば、高いレベルでの戦力均衡は、すべてのチームにメリットをもたらすのだ。なによりも優勝争いが混沌とすることほど、リーグを盛り上げるものはないのだから。それは「金満球団」にも「貧乏球団」にも等しく言えることだ。

コメント

  1. grayghost より:

    >戦力の厚さの名の下に多くの飼い殺し選手
    飼い殺しと見るかどうかが問題ですね。
    私は、今の野口を飼い殺ししてるとは思わないですよ。
    確かに主戦級を控えにしてますが、
    控えというポジションも長いペナントには重要ですから。
    矢野と野口がいることで、若手投手を育てるのも分業出来てますし。
    レンタル制度を導入すれば、少しは解消されると思うんですけどね…どうかな?

  2. 太めのおじさん より:

    ここのところ、ハイレベルなお話がつづいていたのでコメントをご無沙汰しておりました。
    私も野口選手のことは気になっていました。1ファンとしては、「矢野が負傷したらどうするんじゃあ」と思う反面「試合に出たいだろうなあ」と思うこともありました。
    飼い殺し防止FAは大賛成です。torao様コミッショナーに就任してください。
    grayghostさまのレンタル制度もいいですね。こっちの方が実現の可能性高いか。

  3. 野口選手ご本人は納得されている今の状態でしょうが
    >現在、タイガースには若手とは呼べない年齢で、他球団から見れば「なぜ上で使わないのか」と思える選手が何人かいる
    こういう先輩方を見ている若手のモチベーション、ってどうなるんですかね?
    弱体(・・・そういやカープの課題は捕手だよな・苦笑)で、
    力もそんなにない相手チームの若手が1軍昇格のチャンスをもらうのを見せ付けられても、モチベーションを維持していかねばならない。
    精神力要りますね。

  4. run より:

    >この行為は極めて健全だと思う。
    健全ですか・・・
    これからはこう思えるくらいドライにならないといけないんでしょうね。
    野口捕手はFA権利を持ちながらタイガースに残ったので今の状況は納得しているとは思いますが、
    監督がもう少しうまく使ってあげたらいいのにと思います・・・
    2軍選手の「飼い殺し防止FA」は賛成です。
    プロ野球選手は1軍の試合に出てなんぼですもんね。
    これからはたくさんの選手がメジャーに行きそうなので、若手は今までよりチャンスが増えるかもしれないですね。

  5. 蒸し返し より:

    若手の飼い殺しはチームの
    脆弱を引き起こしちゃいますけど
    一番いいFA獲得は若手の見本の獲得ですね
    (そういう意味では秋山や金本は最高)
    よく分からないのは補強しなきゃいけないチームが
    金があってもしないのが不思議ですね

  6. torao より:

    to grayghostさま
    特に野口は、FAを行使して控え捕手を望んだわけですからね。おっしゃるように、「指導者」的な給料も含まれているのでしょうし、飼い殺しと決めつけてはいけないでしょうね。一見、みながハッピーであるように思いますが、「金で出場機会を買い上げた」と意地悪くとらえることもできると思います。タイガースは、自分のところさえ良ければ良いのか?と言われるのもどうかと思い、あえて問題提起してみました。
    to 太めのおじさんさま
    「レンタル制度」は海外の方が実現早そう?国内は、八百長疑惑がつきまとうでしょうし、まずは戦力均衡を最優先に考え、次に試合に出られない選手のことを考えれば、自由に移籍できるようにしてやった方が良いような気がするんですけどね。
    to (まめ)たぬきさま
    「リーグの戦力均衡」がリーグ全体の繁栄をもたらすという考え方じゃないのだから、お金のあるところに冨が集まっちゃう。富みを活用してるはずなのにジャイアンツが勝てないという現在の状況は、いろんな価値観の転換としては良いことなのかもしれないのですが、タイガースがその代わりにはまっちゃ何の意味もないような…。
    to runさま
    監督の使い方に問題があるのは私もそう思います。ただ、道に外れる程とは思いませんけどね。日本の選手会は、スター選手のことが優先的で、使ってもらえない選手の権利についてはおざなりだったなぁと痛感します。
    to 蒸し返しさま
    若手の見本になるようなFA選手なんて、なっかなかいるもんじゃないですからね。金本だって、私、ここまで尊敬される選手になるとは思ってなかったですよ。

  7. タイガースポリマー より:

    野口
    そう言えば飼い殺しになっていたのかも。
    巨人の事は言えないのかも。
    前から言っておられる、出場機会の無い選手のFA(又はレンタル)は良いシステムだと思います。
    検討すべき問題ですよね。
    タイガースにもそんな若手(中堅)がごまんといますものね。
    選手は出てナンボですよね。

  8. torao より:

    to タイガースポリマーさま
    >前から言っておられる、出場機会の無い選手のFA…
    MLBで採用している制度なので、目新しいものではないのですが、なぜか日本では「必要」ということにならないんですよね。不思議です。

  9. 瀬能 より:

    金満球団の飼い殺しも問題だと思いますが、自分は他球団も資金稼ぎのためにFA前にポスティングに出してしまい、若手中心となって戦力を下げているのも問題だと思いますよ。
    仮にそういったところがその資金で中堅選手をレンタルできたら、戦力の均衡にもなるのではないでしょうかね?

  10. torao より:

    to 瀬能さま
    とてもややこしい話なのですが、最近私は「ポスティング=悪、FA=正義」では問題が片づかないと思うようになりました。その内また書きますが、プロ野球に入るという時点で、統一契約書に従って第一の人身売買が成立します。FA期間までの独占的契約権ですね。で、ポスティングというのは、違約金を払ってもらうことで残っている独占的契約権を放棄すること。運用面での問題から不備はあると思いますが、原理原則から外れたものとは思いません。
    それとサッカーのレンタルは、完全移籍のお試し期間という意味合いが強く、「人身売買=正義」の常識があるから成立するものだと思います。NPBのように普通のトレードすら活発化しない現状では、「国内レンタル」が実際的な意味を持つとは思えません。だって、自主的に戦力均衡させようなんて、誰も思ってないんですから。「一定期間、うちの若いのを育てておいてくれ」「ちょうどうちもそこが手薄だったんで助かります」という話もあるかも知れませんが、それはそれで、本来の「戦力均衡(良好な競争状態を保つこと)」とはちょっと違うと思うんですよ。

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