下地

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まだ開幕して8試合目だというのに、またまた深く印象に残るような素晴らしいゲームだった。


試合時間はわずか2時間34分。5時間ゲームでもあっという間に感じるような試合もあるし、2時間半でも完全燃焼する熱い試合もある。イニング間や投手交代、作戦タイムなどでダラダラしないというムーブメントには基本大賛成の私だが、行き着くところ「時間短縮」が大事なのではなく、「どんな時間を見せるか」が大事なのだろう。
毎日毎日同じ事を言うが、毎日同じ事を感じさせるのだから仕方ない。守備と走塁はなんて大切なんだろう。
言外にあるのは、もっとも大事なのは投げることと打つことであるという真実。これは間違いのないこと。
言語活動(言葉を操ってコミュニケーションをとること)にたとえて見る。「投打が大事」、これって言語活動で言えば、「単語力、熟語力が大事だ」に近い。名詞や動詞をたくさん知っていて、それを使いこなせれば、伝達は確実なものになる。
一方「守備走塁が大事」は、「挨拶と表情が大事だ」に近い。伝達そのものを補う、下地を作ろうということだ。
守備と走塁は、試合の下地を作る。投手が抑えるための下地を作り、攻撃時に得点をあげる下地を作る。「リズム」、「流れ」というのも同義だと思う。
岩田対グライシンガー。攻撃のチャンスは多くない。流れを持って行かれると、経験のない岩田には大崩れの危険もある。タイガースにとってはタフな試合だ。
3回までは両投手が素晴らしい立ち上がりを見せる。グライシンガーはいつも通り直球が走り、チェンジアップが良く落ち、スライダー、カットボールが切れる。
岩田も直球に力があり、スライダーはブレーキが鋭かった。双方とも直球と変化球のどちらが来るのかわからないという投げ方に武器がある。
下地作りの始まりはこの日も金本のダッシュから。4回表一死一塁にヒットの平野、金本はチェンジアップに泳がされショートゴロゲッツーコース、しかしこの男はめったなことじゃ併殺を食わない。全力疾走で間一髪一塁セーフ。続く今岡が平凡な二ゴロに終わったことで、なおのことピリピリムードがチームに生まれる。集中が高まる。
5回表、先頭鳥谷が四球。珍しくグライシンガーが制球を乱す。鳥谷の構えに「どこに投げても打たれそう」という恐怖感を覚えたのだろうと思う。
続くフォードへの初球、鳥谷がスタート、ファール。ボールが2つ続いて1?2から再び鳥谷がスタート、フォードこれもファール。2?2となって5球目、また鳥谷がスタート、外角低めに落ちていくチェンジアップにフォードなんとか食らいつきショート左へ、逆を取られたショート坂本のグラブの先を打球が抜ける、鳥谷が3塁を陥れるのをレフトラミレスはただ見送るしかなかった。
無死一三塁となって野口。チャンスと言っても次の打順は好投の岩田。野口でなんとかしたい。2?2からスライダーを押っつけた打球はライトへ浅いファールフライ。高橋由が走りながらキャッチ、鳥谷スタート、崩れた体勢を懸命に立て直しながらバックホーム、ファースト李が中継してホームに転送したが鳥谷ホームイン。
高橋が捕球後ローリングターンからダイレクト返球をしていれば刺せたかも知れないが、和田コーチはそんな好プレーが生まれる可能性は低いと読み切っていたのだろうと思う。それはここまでのチームの勝ち負けの差、勢いの差もあっただろうし、走塁で下地を作っていることの差もあっただろう。たった一つの四球から、ヒットコースをこじ開けて、足でもぎ取った先取点。素晴らしすぎない?
野口と岩田のコンビは息が合うようだ。自分に厳しいストイックな岩田に、大丈夫だお前の球なら打てるはずがないと、ミットを見つめさせる野口。技術よりも気持ちと勢いで押していける投手を任せると野口の味が出る。
表に点が入ると、不思議なもんで試合が動く。振り子は左右に振れるのだ。5回のウラ、先頭李の打球は鋭くセカンドの左を破るに決まっていた。ところがこれを平野が追って横っ飛び、グラブに入れると、起きあがる間もなく一塁へ送球、アウトにするスーパープレー!当たり前のように振れるはずの振り子を力ずくで止める。岩田が心を乱さずに抑えていく下地となるビッグプレーだった。
二死を取った後、キムタクにストレートの四球。もう1勝したのだし、勝利投手の権利なんて考えるような試合じゃないのだが、下位打線で「勝ち」を焦る。続く坂本でエンドランを決められて二死一三塁。原監督はグライシンガーをそのまま打席に送る。試合後の談話で「あそこでは代えられない。あそこで代えてしまってはいろんことがバラバラになる」というようなことを言っていたとのことだが、その通りだと思う。たとえここで代打を出して2点を奪ったとして、その後のリリーフで試合を勝利に導ける可能性はグライシンガー続投より遙かに低いだろうし、今後のグライシンガーの心理に大きな悪影響を与える。リリーフが失敗しようものなら、先発とリリーフ、野手と投手、選手と首脳陣など、チーム内のありとあらゆるところに不信感が生まれる。そんなリスクを背負うような場面ではない。
岩田はここを切り抜け中盤の軽い山を越える。
原監督として、長い先を考えれば当然の策ではあるが、同時にこの試合においてはどうしても流れを相手に渡すことになる。6回表、先頭の平野が三前ボテボテ、ヘッドスライディング内野安打。ミスター下地。
明かな不調に入ってしまった新井は2?2から空振り三振、ここで平野はスタートを切っており盗塁は成功、一死二塁。空振りが相当な確立で予想できる中のスタートだから、単独盗塁と同じ感覚で走っている。頼もしい。
金本。金本にとっては打ちにくい投手だ。直球はコーナーでストライクを取ってくる。チェンジアップは絶妙のコースに逃げていく。初球、インロー直球ボール。打ってもファールの球。2球目ど真ん中に見えて外角低めに決まるチェンジアップ見逃し、振っても空振りの球、1?1。3球目阿部の構えはインロー直球、ストライクを取る球、打ってもファーストゴロになる球。ところが1試合の内にいくつもない大失投がここで来る。直球はすーっとど真ん中へ、左足首で地面を支え、頭は残したまま、膝から腰にかけては前に送り込まれる、体で作った弓の真ん中を矢のようにバットが走る。その一瞬の出来事の後に、ボールは一直線にライトスタンドに消えている。恐ろしい打者だ。武者だ。
なぜグライシンガーが失投をしたのか。走者二塁で最強打者というプレッシャーだろう。平野の下地作りは限りなく大きい。
3?0となり、8回ウラには連打で無死二三塁のピンチを迎えるが、慌てることなく一つ一つアウトを重ねた。ここを1失点に凌いで、後をを藤川に任せる。もちろん藤川も慎重に1回をまとめた。
思えば先発が8回&クローザーが1回なんていう継投は実に久しぶりの気がする。というか前回の記憶がない(笑)。去年、完投は3つほどあったが、このパターンあっただろうか。
8回1失点、被安打4、与えた四死球は2。野手と一緒にグライシンガーを退けた岩田の2勝目、ものすごくでっかい勝利だと思う。勝負を決めた金本も凄かった。だけど勝つ下地を作った選手たちがいたからこそなんだよね。本当に良い勝利だったよ!

コメント

  1. koo より:

    ニュースによると、先発から直接球児につないだリレーによる勝利は、06年7月19日の巨人戦(甲子園)以来、2シーズンぶり…だそうです

  2. 10代のいぶし銀 より:

    初コメントです。毎朝楽しみにしています。先発→球児のリレーは2006年の9月以来だそうです。岩田投手、次は完封目指してガンバ!

  3. 10代のいぶし銀 より:

    すいません。7月の誤りでした・・・。

  4. 匿名 より:

    実はまだ、タイガースに入ってからの動く平野をリアルタイムで見てないんです、、先日のダブルスチールの日の録画のみ。
    でもtoraoさんの文章を読んでると、、、振り子を自分の方に引き寄せる力が平野には宿ってる感じがします。
    きっと勝利の女神もこっちを見てくれるに違いない、というような、ものすごい期待感を持たせる選手ですね!
    トレードで着た時から期待してたけど、想像以上です!
    私は今年は平野のユニ、買おうと決めました!1

  5. rainbow hill より:

    5回の攻撃、見事でしたね。
    ヒットエンドランを成功させたフォードは外国人とは思えないコンパクトなスイング(?)で、いつ観ても微笑ましいです。
    それにしても岩田、人よりも数十倍難しい自己管理をしながら、大読売打線を相手に一歩も譲らない投球天晴れでした。涙が出ました。

  6. beru より:

     ずっと読ませていただいていましたが、投稿は久々です。また、よろしくお願いします。
     今シーズンが始まってわくわくしていましたが、まさか、こんなにわくわくする試合を見せてくれるとは!
     走塁がすばらしすぎて、もう、びっくり。去年まではほとんど味わえなかった面白さ。
     岩田君って、ピンチの時の強気の表情がいいですねえ。この調子で、成長してほしいなあ。

  7. toraoさんこんにちは!
    いや?しかしいつ読んでも面白いですね。
    毎朝やきもきしながら更新待ってますから?(笑)
    東京は我らがタイガースのように、めちゃめちゃ快晴で気持ちいい天気です。
    試合は屋根付きでデイゲームもったいないですが(;^_^A
    今日も快晴タイガースが続くよう試合を楽しもうと思います。

  8. 西田辺 より:

    実は、8回の亀井のダイビングのファインプレー(あれは亀井を褒めるしかない)
    が出た時、凄い嫌な予感がして直後谷・坂本の連打で2点は覚悟しました。
    何故、谷がスタメン落ちしているか知りませんが、もし足の故障が原因
    なら、あそこで代走鈴木尚とかの手を打たなかったのか。
    坂本の長打で1点返して無死2塁と同点・逆転の匂いが
    プンプンする状況を作り出してきたかも知れない。
    意外と無死2・3塁は策がしづらい。
    結局は内野ゴロの1点のみ。
    各選手の能力に頼る野球を目指しているのならそれも
    良いでしょうが、点を得るには・勝つためにはtoraoさんが
    言われる下地が必要になる。
    で、何で私はGの話してんだ?(笑)

  9. うーやん より:

    昨日はお昼にドジャース黒田のリズムの良いピッチングを観たあとの岩田・グライシンガーの投げ合い。両投手ともリズムの良いピッチングで試合は速いペースで進み、後半に入ったところで今年のタイガースの足(鳥谷)が生きての先取点。そのあとすぐに追加点。このタイガースの攻撃のリズムの良さ。
    そのあと岩田は5回に少しもたついたが、6、7回とリズムが戻って打たせてとる。このあたりは toraoさんも言う様に野口のリードがいい。最後に藤川の助けを仰いだものの、1点に押さえた岩田は立派。
    今日の岩田のピッチングを観ていて、バッターのインコーナーへのボールが多かった様に思う。どうも今までの傾向として阪神のピッチャーは外角攻めが多かったのでは言う気がした。
    これからはデータをとって見たら面白いと思った。

  10. PPW306R より:

    行ってきました、今季公式戦初虎観戦。
    家族連れが結構沢山いらしてて、
    ちっちゃいお子さん達もトラ耳やトラッキー&ラッキーバットで可愛く応援してました。
    昨季対燕最終戦以来となる、グラとの対戦。
    このピッチャーから勝利をもぎ取るのは、相変わらず容易いことではありませんね。
    だからこそ、勝利の喜びもひとしおであります。
    西田辺さんではありませんが、8ウラのG。
    坂本の2塁打で谷は生還できたように思えてならないのですが、どうでしょう?
    3塁でストップしたことで僕は、「あ、これで救われたな」と思いました。

  11. やっぱりトラ! より:

    2シーズン続けてやられるほど我等が4番はヤワではない。
    今年はカモにしますよ。

  12. あらんじ より:

    ごぶさたしてます☆
    あ、コメントはしてないけどもちろん毎日拝見してますよー。
    >先発が8回&クローザーが1回
    ほんと久しぶりですよね。私はこの継投を待ってました!
    いつ以来だったか気になって、試合終わってから速攻Tigers DATA Lab.さんで調べましたよ。久々すぎる…。
    今年は今のとこ継投にイライラしなくてすむので穏やかに観戦できてます(笑)。
    岩田は8回も0点で乗り切ったら最後まで行かせたでしょうか?残念だったけど内野ゴロの間の1失点なら上出来です。
    次回はぜひとも完投、そして完封を目指してほしいですね。
    井川の後継者になってくれー!!

  13. きゅー より:

    ミスター下地ってのはいいですね?。
    He Is Mr.SHITA-Z

  14. torao より:

    to kooさま
    to 10代のいぶし銀さま
    すばやいリアクションで教えていただき、ありがとうございました。そうでしょう、去年はなかったもの!
    to ななしさま
    まさに振れようとしている振り子に飛びついたって感じでしたよ。
    to rainbow hillさま
    自分を応援してくれている、自分と同じ病気の人たちのために。そういう自覚があるところが、岩田の魅力ですね。
    to beruさま
    ピンチの時、弱気がこみ上げてくるのを、ぐっと腹に力を入れてこらえている。そんな顔なんですよね。
    to 佐々木カルパッチョさま
    まあ、快晴といえば快晴ともいえるような、抜けたような試合でしたね(笑)。
    to 西田辺さま
    ええ、ええ。あの亀井のプレーは凄かったです。紙面の都合でスルーしましたが、完璧にフォローしていただき、ありがとうございました(笑)。
    to うーやんさま
    野口は真ん中を基本に考える捕手ですね。矢野は外角を基本とします。どちらもオーソドックススタイルだと思いますが、投手によって向き不向きがありますよね。
    to PPW306Rさま
    8ウラのところ。リスクがあると感じたのなら、点差からセオリーはストップでOKだと思うんです。もし刺されたら終了ですから。でも、流れを変えるというのは、そういうプレーなんですよね。
    to やっぱりトラ!さま
    こっちにも言えることなんですが、実績というのは3年続いて初めてホンモノだと思うんですよ。そしてあんまり続くと、そろそろ衰退の可能性も高まります。難しいものです。
    to あらんじさま
    私もあらんじさのところ見てますよ!井川もガンバレと思いながら。
    継投、走塁。去年までの2大イライラが解消されていることを心から喜んでいます(笑)。
    岩田はけっこう井川っぽいですよ!
    to きゅーさま
    下地って何用語なんですかね。左官用語かな。

  15. でる より:

    あ、ななしのままコメントしてましたね。
    すみません、、、
    昨日は微妙だったみたいだけど(?)
    甲子園の大歓声にやられたんじゃないか?と言う方もいて、
    やっぱり平野の今後に期待してます!

  16. torao より:

    to でるさま
    でるさんだったんですね。
    あんな日もありますよ。平野もまだまだこれからです。